2026年7月4日土曜日

中山・吉沢・柳家


 週末の朝、平日の細かく定まったモーニングルーティンとはまるで違う、漫然とした時間を過しながら、テレビはなんとなくいつも「シューイチ」に合わせている。その日の起きた時間によって見る時間帯はまちまちだが、「ズームインサタデー」時代から続くジャイアンツ偏重のコーナーを除けば、だいたいそれなりに不愉快なく眺められる。しかし何ヶ月か前、司会の中山秀征が休暇かなにかで番組を欠席したとき、番組に対して無性に居心地の悪さを感じた。とても物足りない、寄る辺ない気持ちになったのだ。これには自分でも驚いた。えっ、俺はそんなに中山秀征に依存していたの? と。でも意識し出したらどうやらそうらしかった。先日、サッカーW杯に合わせて、中山秀征はメキシコとアメリカに行っていた。中山秀征はサッカーになんて興味ないだろ、と思っていたら、やっぱりぜんぜんなさそうで、VTRのほとんどはアメリカの単なる観光ロケだった。その中で中山秀征はナッシュビルのバーでエルビス・プレスリーの曲を唄い、地元のアメリカ人と盛り上がっていた。そのさまを見た瞬間に、疑念は確信に変わった。俺はどうやら秀ちゃんのことが好きらしいぞ、と。そしてそれは秀ちゃんのパーソナリティがどうこうということではなく、俺は秀ちゃんから、テレビがハラスメントとかで臆病になる前の、豪放磊落で大雑把で身勝手で、でもギラギラと輝いていたあの時代、その時代の最期のほうにテレビっ子だった自分が愛していた世界の残り香のようなものを嗅いでいるらしい、と思い至った。秀ちゃん自身にその自覚があるのかどうかは判らない。たぶんないと思う。そういうのって、本人が自覚してやるもんじゃないんだと思う。周囲のさまざまな思惑や事情が折り重なって、結果として中山秀征がそういう存在になったのだと思う。まあナベプロだし、アメリカのバーでノリノリでエルビス・プレスリーを唄えてしまうという本人の資質的にも、順当なところだよな、と得心がいく。加えて思い出されるのは、僕はMAXのファンであるという事実だ。中山秀征とMAX。結局あの時代がいちばん愉しかったよね……、と言いそうになったが、いや待てよ、中山秀征とMAXだぞ、お前ほんとにそれでいいのか、と思いとどまった。思いとどまったが、しかし今もまだタイトロープの上に立っている気がする。5年後くらいには本気で言っている気もしている。

 プライムビデオで「国宝」を観た。3時間あるというので、どうやって観たものか、一気に観るのはどう考えても無理(ピイガが寝たあと22時半から観はじめても寝るのが2時とかになってしまう)なので、土日の2晩に分けて観るか、などとファルマンと話していたが、結局それさえままならず、なんと3度の土曜日の晩に分けて、ようやく観終えることができた。つまり3週間かけて観たのだ。そのような視聴をした人間が感想を述べる権利などないように思うので、なにも言うつもりはない。ただファルマンによる、「曽根崎心中」のお初(を演じる吉沢亮なり横浜流星なり)のモノマネがおもしろかった、ということだけ記録しておく。学のない夫婦。

 ポルガが学校の授業の一環で落語の鑑賞をするとのことで、誰が来るんだと訊ねたら、「えっとね、この人」と言って見せてくれた、学校からの知らせに記された名前が、柳家喬太郎だった。えええっ、となった。柳家喬太郎? あの柳家喬太郎? マジで? なにそれ! めっちゃうらやましいんだけど! と大興奮した。なにを隠そう、柳家喬太郎と言えば、ここ数年、いちばん好きな落語家だ。CDやYouTubeでたびたび聴いている。すごく好き。そんな柳家喬太郎を、僕よりも娘が早く、生で体験するという。ずるい! ずるいずるい! いいないいな、サイン貰ってきてくれよー、などとわがままを言った。
 そうしたら本当にもらってきてくれたのでおののいた。


 この場合の「サイン貰ってきてくれよー」は、発表会などの際の「横断幕を持って応援するね!」と同じ類の、一種のジョークと言うか、常套句みたいなもので、まさか本当にもらってきてくれるとは思っていなかった。ポルガは公演のあと、先生に取り次いでもらって、ひとりで楽屋を訪問し、父親がファンであると柳家喬太郎に伝え、サインを描いてもらったのだという。マジかよ! お前すげえな! なんか物怖じとかぜんぜんしない、サイコパスタイプの人だなあ、自己肯定感の化け物だなあ、とは前々から思っていたけど、本当にすごいな! って言うかお前、柳家喬太郎と一対一で会話したのかよ! うらやま! もちろんそんなことをした生徒はポルガだけだったそうで、見てのとおり、とても丁寧に描いてくださっている。さらに右上には僕の名前も書いてくださっている(ポルガはスマホで表示して漢字を伝えたらしい)。柳家喬太郎が俺の名前を書いてくれた! たぶんきちんとした柳家喬太郎の独演会とかだったら、こんなの観客みんなが欲しいに決まっているので、楽屋訪問もできないし、これほど丁寧なサインも望めないんだと思う。こういう機会だから得られたのだ。めっちゃ嬉しい。大事にしようと思う。早速ハードケースを買ってきて収めた。持つべきものは物怖じしない娘である。ポルガの好物のマーブルチョコ(明治)を10個買って帰った。