2026年2月1日日曜日

「僕のメイドは同級生」を読んで


 10冊目。2010年4月刊行。通し番号は155。
 前作から丸一年も空いている。著者の都合か版元の都合か分からないが、初期の勢いのことを思うと、この鈍い刊行ペースがやけに切なく感じられる。
 カバー袖の著者メッセージは以下の通りである。

 出た! 突然出た! ご主人様の、メイドによる、ご主人様のためのエロメイドノベル! その名も×5! 僕のメイドは同級ゥ生! マニア垂涎のスク水メイドもあるゾ。

 なんやねん、と思う。著者メッセージ欄って、こういうことじゃないのではないか。作品自体の売り文句や説明は、帯や背表紙に書いてあるのだから、この欄ではどこまでも作者の個人的な近況を書けばいいと思う。僕はそれが知りたいのだ。しかしこのままならなさ、正体の掴めなさこそが、神楽陽子のミステリアスな魅力に寄与しているのかもしれない、とも思う。
 あらすじはこちら。

 ごく普通の少年、一誠と、クラスで人気を集める委員長、萌葱。一見正反対の少年少女だが、家に帰れば立場が一転、ご主人様とメイドの関係に! 主に思いを寄せるメイド&委員長の二つの顔を持つ萌葱に対して、一誠は……!?

 そうなのだ。著者のこのレーベルにおける10冊目にして、今作は初めての単独ヒロインものなのである。名前のついたキャラクターは完全に主人公とヒロインのふたりしかおらず、そのふたりが最初から最後まで、ひたすらに一対一でエロいことをし続ける。あらすじには「一誠は……!?」と意味不明な煽りがあるが、別に重要な決断や劇的なドラマがあるわけでもない。ふたりの仲を引き裂く存在はいないし、恋のライバルもいない。
 前にも何度か語った気がするが、エロ小説の主人公というのは、設定上、あまり冴えない男子であるケースが多く、押し並べて童貞だが、しかしなぜか物語が紡がれ始めた瞬間から、怒涛の如くモテ始める。それは普通に考えたらとても非現実的なことなので、そのテンプレートに沿った物語を作りにあたり、作者は主人公が突然モテ始める理由、きっかけを考えなければならない。ただしそのきっかけを構築することこそが、物語そのものを構築することなので、それはとても有機的な作業であるはずだ。ここを面倒がって疎かにすると、なぜ主人公が急にモテ始めたのかという、土台となる部分が不安定になってしまうので、物語の骨格が揺らぐことになる。
 今作がまさにそれで、主人公とメイドは、互いが幼い頃からほぼふたり暮しのような生活をしていたが、物語が始まるまで、性交渉は一切なかった。それが物語が始まった途端、メイドが特に理由もなく、主人である少年に供する紅茶を、ティーカップではなく自分の女性器に注ぎ始め、それによって火が付いた主人公と、めくるめく愛欲生活が開始されるのだ。読んでいて、とてもびっくりする。きっかけって、こんなに描かなくていいの? と思う。そして、いいのか悪いのかで言うと、やっぱりあまりよくないのだ。
 エロ小説で感情移入のことについて語るのもずいぶん恥ずかしい行為だと思うが、きちんときっかけが描かれないと、女の子とセックスをするようになる、主人公の気持ちに共感できない。行為はエロい。でも心がついていかない。読んでいて、これはAVのようだと思った。AVにだって物語性に凝ったものがあるのは知っているが、その一方で、なんの説明もなくただ男と女がひたすらエロいことをするだけ、どうせお前らそれが見たいだけのことだろ、的なものが大半だろう。今作は、まさにそれみたいだと感じた。もしかしたらそういう趣向なのだろうか、一般的にイメージされるAVのノベル化という試みなのだろうかとさえ思った。だとしたらそれはなんと意味不明な試みなのか。
 ちなみに今作は、『ボクのメイドは同級生 真夏の海と内緒の夜』として、続編と言うか、後日譚みたいなものが、電子書籍限定で発売されており、こんな企画をやっていない限りはそこまでして読もうとも思わなかったが、せっかくなので、単行本を読み終えた勢いのまま、購入してブラウザ上で読んだ。実際の購入価格は入会キャンペーンクーポンでもっと安かったが、定価は300円もするので(紙の単行本が630円なのだ)、どれほどのボリュームなのかと思ったら、たぶん単行本にすると70ページくらいのものだろう。内容は、やはり主人公とメイドが、特に何の波乱もなくふたりきりでエロいことをするというもので、なぜこれがわざわざ電子書籍で300円で販売されたのか、さっぱり分からなかった。唯一の特筆すべき点としては、神楽陽子にしてはとても珍しく、スクール水着ではなく面積の小さいビキニだったということくらいで、それはビキニ派の僕にとってはとてもありがたいことのはずだったが、しかしやはり著者の嗜好とは合わないのか、明らかに筆が乗ってない感じで、いまいちだった。
 まあこういうこともあるだろう。刊行ペースからも窺えるように、この時期だいぶ調子が悪かったんだろう。そんなときもあるさ。こんなことくらいで見限らないよ。