2026年3月21日土曜日

ブランド理念


 この2ヶ月くらい、Yahoo!フリマでの水着販売がわりと活況だった。こんなに売れちゃったら在庫が寂しくなっちゃうな、と一瞬だけ思ったが、やっぱりそうは言っても生産のほうがよほど上回るのだった。購買者、もっとがんばれ!
 生産と言えば、これはとても個人的な話になるのだけど(いったいいつ僕がここで個人的じゃない話をしたというのか)、水着用の生地を主に買っているお店というのがあって、これまでそこのアウトレット生地というのを使用していたのだが、つい先日それが販売終了になってしまい、アウトレット品ではない通常の2way生地だと、これまでに較べてそこそこ値段が高くなるので、嫌だなあ、嫌だけど仕方ないなあと思いながら、先ごろ初めてそちらを発注したのだが、届いたものは、プラシーボかもしれないが、思っていたよりもアウトレットよりもだいぶ質感がいいように感じられたので、売れはじめたNOBITATTLEが今よりも一段上に行くためには、ちょうどよかったのかもしれないな、などと思った。
 ところで数日前の出来事なのだが、フリマのほうに一通のメッセージが来た。その内容はと言うと、「素敵な商品ですね」とまず褒めてくれたあと、「ところでフロントがフラットになっている商品の開発予定はありますか?」という問い合わせで、これには虚を突かれた。
 僕自身が地元のプールで穿いているそれを出品するにあたってのリスク回避策として、販売ページでそこまで股間の立体造形については高らかに謳っていないけれど、実際のところの製作コンセプトは、はっきり言ってその部分に意識が集中しており、言わば製品のアイデンティティに他ならない。なんてったってブランド名はNOBITATTLEである。息子にのびのび育ってほしいという願いを込め、名前の通りに育ち、そして担任からは頻繁に「立っとれ!」と叱られる、そんなぱぱぽとるのための水着。それがNOBITATTLEである。
 であるからして、作ろうと思えば簡単なことではあるだろうが、「現在のところ考えておりません。ご希望に沿えず申し訳ありません」と返事をし、今回のやりとりは終わった。
 やりとりを終えたあと、虚を突かれた部分から、こまごまとした思いが湧き上がってきた。水着を作りはじめて3年か4年くらいになるのだが(正確なタイミングを探ったが、はっきりしなかった。日々せっせと日記を書いているのに、それでもあとから振り返ったとき、知りたいことがきちんと記載されていなかったりする。きりがないのだと思う)、NOBITATTLEというブランド名はあとから設えた(しかしとてつもなく秀逸な)ネーミングであるにせよ、男性器のための膨らみを持たせるという理念は前提としてまずあり、それを成立させるためにそれ以外の部分を考えていると言ってもいいわけで、そのためフロントをフラットにするという、発想そのものが、これまで本当に微塵もなかった。しかし男性用の水着、特にハーフパンツ型ではない、ボックス型やスパッツ型というのは、よほどこだわりを持って選ぼうとしなければ、手近な選択肢はほぼ黒か紺の二択になってしまうわけで、もしかすると、「さまざまな柄の生地で作られた男性用水着」という、その部分だけで価値を見出す層もいるのかもしれない、そしてその人にとっては、股間の膨らみというのは不必要な、むしろ志向的にはあると厄介なもの、というパターンもたしかにあるのかもしれない、今回の問い合わせはつまりそういうことだったのかもしれない、と思った。男だったらいつだって、どちらかと言えばそこは強調したいと考えるものだと、これまで信じて疑わなかったが、その確信が少し揺らいだ。股間がフラットな水着の需要、もしかしてあるのか? 作ったら売れたりするのか? 
 しかしその一方で、やはりこんなことも思った。もうずっと前、それこそおもひでぶぉろろぉぉんで読んでいるような時代の話だが、練馬で友達夫婦を家に招くにあたり、たこ焼きを企画して、そのために前日にアメ横へ行って蛸を買おうとしたのだが、店に並んでいるのは1匹丸ごとの蛸ばかりで、たこ焼き用に脚だけが欲しかった僕は、威勢のいい店主に、脚だけのものは売っていないのかと訊ねたのだが、返ってきた答えは、「そういうのはスーパーに行きな!」という苛烈なもので、今よりもっと繊細だった20代の僕の心は大きく傷ついたのだった。今回の問いかけでそのエピソードを想起したということは、やはり心のどこかで、「そういうのはアリーナにでも行きな!」という、あの店主と同じ微かな苛立ち、略して微苛(びか)があったということだろう。思わずこれまでなかった熟語を作ってしまったが、わりと汎用性が高い気がするので、これからみんなもぜひ使ったらいいと思う。
 アリーナと言えば、先日ちょうどアリーナの水着の開発の人が水着について説明する記述を読み(原功著「子どもが水泳を始めたら読む本」(ベースボール・マガジン社))、いろいろと興味深かったのだが、その中に、水着に使われるポリウレタン繊維はプールの塩素と相性が悪い、という話があって、特に女性の場合、胸や尻の部分は生地が伸ばされやすく、水が通りやすくなるので、特にダメージが強く、生地が薄くなり、場合によっては透けるリスクが高まるのだそうで、これを読んで、ふたりの娘の父親でもある僕はどういうことを思ったかと言えば、透けてほしい部分がちゃんと透けてくれる稀有なパターンだなあ、ありがたいなあ、プールはやっぱり尊いなあ、と思ったのと同時に、女子がそんなリスクを負って泳いでいるんだから、男子もまたその心意気に答えなければならない、女の子のおっぱいの膨らみ、そしてそのせいで生地が薄くなってしまうという、もはやハレンチ学園的な恩恵に、男はいったいどんなアンサーソングを返せばいいのか。
 ということを考えると、やっぱりNOBITATTLEは、めいっぱいにNOBITATTLEでないとダメなんだ、男子だけそこをフラットにしようだなんて虫のいい、卑怯な話があるか、と改めて思う。確固たる理念である。NOBITATTLEのあそこに収まっているのは、ぱぱぼとるであると同時に、確固たる理念なのだと気づいた。