2026年2月14日土曜日

鈴カステラとオカン


 2週間ほど鈴カステラを切らしていた。由々しき事態だ。由々しき事態なのだけど、そのためだけにわざわざゆめタウンの無印良品に行く、という手間を惜しんだせいなので、完全に自己責任である。仕方なくこの間は、バナナカステラや六方焼きなどでしのいでいた。たまには気分が変わってそれもいいものだ、みたいなことを自分に言い聞かせつつ、しかし内心では忸怩たる思いを抱いていた。
 実家の人たち、すなわち義父母や義妹に対し、「ショッピングでゆめタウンに出向く際は、事前にひと声、『今からゆめタウンに行くんだけど、パピロウ、いま鈴カステラ買う必要ある? 必要なら買っとくけど?』と言葉をかけてほしい」と頼んであって、僕はそれを本当に大真面目に言っているのだけど、どうも上質なジョークだと思われている節があって、いまだ呼びかけはいちども受けたことがない。年始から絶対にいちどくらいは行っているだろうに薄情だ。自分が億劫がって行かないくせに、そんな恨み節まで口を突いて出る始末である。
 そんな実家の面々までも巻き込んだ僕の鈴カステラ狂いに対し、ファルマンは本当にうんざりしていて、もはや完全に無関心を決め込んでいる。鈴カステラを切らしていた日々、僕は日課のように「鈴カステラがないから調子が出ない」とつぶやいていたので、それは嫌気も差すというものだろう。
 そんな折、義母からファルマンあてにメッセージが届けられる。それは、「先日行った喫茶店でその店オリジナルの鈴カステラが売っていたので、パピロウ用に1袋買ったから、用があるとき取りに来て」という内容で、僕はそれを聞いて僕は「む……?」となったし、ファルマンはやはり心底うんざりしていた。去年のトップバリュの鈴カステラ騒動の際も、僕は実家の面々を大いに巻き込んだのであり、なので当然、理解していると思っていた。僕がドラえもんにとってのどら焼きのように、とにかく無類の鈴カステラ好き、などという可愛げのあるキャラクターでは決してなく、鈴カステラの好みに異様にうるさい姻戚だということを。だからトップバリュのあれがなくなって以降、無印良品のしか食べなくなったわけで、であるからしてゆめタウンに行った際はよろしく、という話をしている次第であり、そんな流れを経て、それでも「たまたま見つけた鈴カステラをパピロウ用に買う」という行為をする、そのオカンムーブたるや、すさまじいと思う。なんだろう、その挑戦心。「もうこの人は自分でそう決めたら、絶対に人に紹介された違うものなんか受け入れないに決まってるんだから、あきらめればいいのに」と、ファルマンは嘆いていた。
 しかしその連絡をもらったあと、なんだかんだで実家に赴く機会がなく、そのまま建国記念日を迎え、とうとう自力で鈴カステラを買いに行ってしまった。3袋ごとに安くなるので、今回も9袋買った。久々に口にする鈴カステラの喜びと言ったらなかった。それから2日くらいあとで、義母は突然わが家にやってきて、他のなにかと一緒に件の鈴カステラも置いていってくれたという。労働後に帰宅した僕に「ほらよ」とファルマンが見せてくれたそれは、練乳がかかった、パサパサのタイプのやつで、まだ開けてもいないが、持った瞬間、もとい見た瞬間に、「これは俺が食べないやつだ」と判り、ファルマンにそう伝え、「なんならお返ししてもらえないだろうか」と頼んだが、それはもはや無視された。
 そんな鈴カステラ狂騒曲でした。