左の腰骨のあたりの皮膚が痒い。見ると湿疹のようになっている。数日前から薬を塗っているが、いまいち効果がない。
ファルマンに相談したところ、出てきた言葉はやはりこれだった。
「裸で寝てるからや」
もはやフジモンの「顔デカいからや!」みたいになっている。年末「hophophop」にも書いたが、ありとあらゆる身体の不調が、裸で寝ているせいにされる。こちら陣営の言い分としては逆である。裸で寝る健康法を謳った書籍では、ありとあらゆる身体の不調は、裸で寝ることで解決していた。こんなに互いの主張が正反対にぶつかり合うことがあるかよ、と思う。
しかし昨晩に関しては、こちらも痒みを早く治めたいという思いがあるので、ファルマンの主張を聞き入れることにした。また今回に関しては、ファルマンもいたずらに、夫が全裸で寝ることへの忌避感だけで言っているのではなく、「あなたは寝るとき左を向いて寝ることが多い。だから左の腰骨のあたりがシーツと触れる。そして最近は冬用のあったかいシーツだから、それで夜中に汗をかいて、そこがあせものようになっているのだ」と、わりと論理的なことを言ってきたのだった。悔しいがそれは一理あるような気もしたので、仕方なく、ゴムのあまりきつくない、ニット生地のトランクスを穿いて寝ることにした。
ものすごく久しぶりのことだった。夏の帰省の時などを除き、家の布団で寝る際に下半身になにかを身に着けて寝たのはいつ以来だろうか。なんだかぞわぞわした。
「でもさー、俺さー、寝てるときすげえちんこ触るからさー、パンツとか穿いてると、ウエストゴムが手首に当たって、起きると手がめっちゃ痺れてるんだよね」
慣れない下半身の感覚にぞわぞわしながら僕がそうぼやくと、
「触んなや」
とファルマンは一蹴した。
僕だって、意識的に触るわけではない。もちろん意識的に触る場面もあるが、睡眠中の行動は無意識だ。無意識だが、夜中、目が覚めると、確実にちんこを触っている、という話なのだ。なので明日の朝、起きたら手が痺れてるかもなー、嫌だなー、と思いながら寝た。
そして夜中、ふと目が覚めた。もちろんちんこを触っていた。ちんこを触っているなあとまず思い、その少しあとでハッとした。
トランクスがなかったからだ。
下半身が、いつものように、素っ裸だったのだ。
穿いて寝るなんて違和感だ、や、手首が痺れてしまうかも、といった葛藤はなんの意味もなかった。僕というマシーンは、もはや就寝時に下半身になにかを身に着けていることを、現象として受け付けないのだ。そういう仕組みがない。なのでそれに逆らってパンツを穿いて寝ると、脱ぐとか脱がないとかじゃなく、オートメーションに排除される。本当にそんな感じだった。だって「パンツを穿いて寝るなあ」と「パンツ穿いてない!」の間に、本当に一瞬もなんの意識もなかった。それくらい無機質に、下半身からパンツが消えていた。寝ながらパンツを脱ぐのって、脚を縮めたり、前屈みになったり、それなりに入り組んだ動作が必要だと思う。それをまったくの無でやっていることになる。さすがにちょっとおそろしい。
しかしこのままだとあせもはなかなか治らないので、対策が必要だ。パンツはもうあきらめたので、今晩は腰の位置にバスタオルを引くという作戦でいこうと思う。手のかかる子。手のかかる子ほど愛おしい。なるほど愛おしくて、僕はひと晩じゅう愛でるのかもしれない。