2026年1月10日土曜日

「魔法少女の育て方 お兄ちゃんはハイポーション」を読んで


 9冊目。2009年4月刊行。通し番号は123。
 前回よりは短い期間での刊行となった。ちなみに神楽陽子作品的には今作からということになるが、レーベル全体のブックデザインがこのあたりの時期で少し変更されていて、カバーを外した本の本体の表紙が、これまではカバーのイラストと同じものが単色でプリントされていたのだが、リニューアル後はイラストを置かず、たとえばこの作品ならば「MAHOUSYOUJO NO SODATEKATA」というふうに、タイトルをそのままローマ字で表記したものだけが、とてもシンプルにデザインされるようになった。これは、カバーさえ外せば街中で読んでいてもバレないし恥ずかしくない、という狙いであると、なぜか知っているが、僕はいったいなにで読んだのだっけ、と考えて、それでようやく思い出したが、二次元ドリーム文庫を刊行しているキルタイムコミュニケーションの公式ホームページには、かつて編集者ブログというものが存在し、そこで語られていたのだった。このレビュー企画をやるようになってから、公式ホームページを頻繁に開くようになったが、これまですっかりその存在を忘れていた。なぜ長らく忘れていたかと言えば、今はもうブログの影も形もないからだ。たぶん途中でTwitterに移行したんだろうが、それにしたってそれまでのブログを完全に消滅させることはないじゃないかと、これまで完全に忘れていたわりに、少し憤りもする。あともうひとつリニューアルによる大きな変更点として、カバーのそでの部分に、これまでは本文の一部抜粋が載っていたのだけど、これ以降は著者およびイラスト担当者のメッセージが置かれるようになった。著者のメッセージ! すなわち、神楽陽子の、創作ではない、いわばオフショット的な部分ということである。もしかすると「二次元ドリームマガジン」とかではそういう欄は前からあったのかもしれないが、単行本一辺倒の僕からすれば、それは初めての作者の生の声ということになる。その内容はこうである。

 この作品が本に仕上がる頃には、新しいパソコンをいじっているハズ。七百円程度で内臓のHDDに容量200ギガも追加できる、とはすごい時代になりましたね。……こんな大容量、使った経験も必要もないんですけど。

 どうでもいい。めちゃくちゃどうでもいいが、それでも感慨深いものがある。
 とても前置きが長くなった。本作の内容についての感想に移る。あらすじはこうである。

 魔法少女のティナとリゼット、そしてそのお世話をする瀬戸秀一。修行しながら学院に通う彼らの前に、なんと未来のティナとリゼットが現れる!! とびっきりの美女に成長した妹たちは過去の自分と秀一をくっつけようとエッチに誘惑してきて!?

 魔法少女という設定ありきで考えられたようだが、主人公の名前は思いきり日本人だし、そこまでファンタジー世界というわけでもない。学院にいる魔法使いは主人公と少女ふたりの3人きりで、あとは普通の現代日本の学校といっていい。これはかつての「なりきりプリンセス」と較べると、設定の構築の力の入れ具合に雲泥の差があるが、しかし「なりきりプリンセス」を読んだときに強く思ったこととして、エロ小説にそこまで練った設定はいらない、というのがあるので、だからこれでぜんぜんいいんだと思う。ロッドを肛門に突っ込んだりする魔法少女プレイをするにあたり、魔法の要素が必要になるのは主人公と少女たちだけであり、別に他の人間まで魔法使いである必要はないし、ましてや世界全体がファンタジーである必要もまるでない。設定の構築に割く労力やページ数の分だけエロに注力してくれたほうが、こちらとしてはよほどいい。これは予算の都合で大掛かりなセットなど作れるはずもないAVとかでもそうだろうが、エロを盛り立てるだけの最低限のお膳立てさえしてくれれば、その狭いエリアを包んでいる全体の世界観は、むしろ下手なものを出されて白けるより、こちら側でなんとなくいいように解釈するよ、という、一種の見立てにも通じる奥ゆかしい文化がここにはあるような気がする。
 ところで今作の出色しているポイントとして、ヒロインは4人なのだけど、その4人は実はふたりで、未来から来た数年後のそれぞれの少女である、というのがある。これはかなり斬新な試みではないかと思うのだけど、僕が知らないだけで先行作品があるのだろうか。この試みの利点は、4人が本当に別の4人だと、そのぶんキャラクターを紹介しなければならず、作者としても読者としても作業が必要になってくるが、ティリスは数年後のティナだし、リズエルは数年後のリゼットなので、だいぶ煩雑な説明が省ける。そしてティナとリゼットが中学生くらい、ティリスとリズエルは大学生くらいという年齢設定もいい。胸が小さいキャラ、胸が大きいキャラという区別ではなく、胸が小さかった時代、胸が大きくなった時代という区分。ここになんと言うか、ティナとリゼットが未来に対して抱く希望や、逆にティリスやリズエルが過去に対して抱く愛しさみたいなものが、ない交ぜになって、得も言われぬ多幸感があるのだ。
 ただしティリスとリズエルがどうして過去にやってきたのかと言えば、それは不幸な理由からで、ここもこの作品のすごいところなのだが、実を言うとこのふたりの生きていた未来は同一の世界ではなく、ティリスのいた世界では、秀一はリズエルと結ばれていて、ティリスはふたりの行為を見て悔しさが募り、そしてリズエルのいた世界では、逆に秀一はリズエルと結ばれていて、リズエルは寂しさに身を焦がしていて、それゆえにふたりはそれぞれ過去に戻って、幼い自分と秀一の既成事実を作ってしまおうと画策するのである。このように、パラレルワールドという、ちょっとSF的な要素も出てくるのだが、しかしこのSF的な要素は、なんのために存在しているかと言えば、分かりますか、ここが本当にすごいんですよ、それはつまりですね、それぞれ秀一と結ばれなかった未来世界のティリスとリズエルは、処女だってことなんですよ。未来から来た豊満な肉体に発育した少女たちはすっかり誰かのお手つきかと思いきや、どっこいそんなウルトラC的な技法により、ふたりとも、いや4人ともが処女という状態がこれにより完成し、結局この時代の秀一は4人ともの処女を奪うのです。ティリスとリズエルの謀略により、ティナとリゼットの破瓜が先に行なわれ、ティリスとリズエルのそれは物語の終盤になるのだが、じゃあその場合、ティナとリゼットがこの時点で処女を喪失しているのなら、自動的にティリスとリズエルの処女膜も失われるのではないか、とも思うのだが、そこはまあ、なんかパラレルワールド的な部分がいい感じに作用して、処女のままだったんだと思う。まあ俺はね、俺自身は別に、女の子のヴァージンに重きを置くような器の小さい男じゃないからね、別にどっちでもいいんだけどね、でも人によってはすごく大事なところのようだからね、だからこれはやっぱり画期的な設定だったんじゃないかと思う。ムーブメントが起ったら類似作品がうようよ出てくる世界なのに、「幼かった過去」と「発育した未来」のヒロインを同時攻略する話って、あまり聞かない気する。なんでだろう。すごい可能性を秘めている気がするのに。